【感想・レビュー】GIGANT(ギガント)|“巨大化する彼女”が暴く、現代の祈りと悪意

アクション・バトル

基本情報

  • タイトル:GIGANT(ギガント)
  • 作者:奥浩哉(『GANTZ』『いぬやしき』)
  • 掲載誌:ビッグコミックスペリオール(小学館)
  • 連載期間:2017年12月〜2021年9月
  • 巻数:全10巻(完結)
    上記の基本データ(掲載誌・期間・巻数など)は、公式・事典系情報を参照した。『ギガント』は小学館の青年誌で連載され、単行本は全10巻で完結している。1巻刊行告知は小学館のニュース、連載期間や巻数は事典情報が整理しやすい。ウィキペディア小学館コミック

あらすじ(ネタバレなし)

映画監督志望の高校生・横山田零は、街で見かけた誹謗中傷の張り紙をはがして歩く。その標的にされていたのが、近所に住む人気女優パピコ(本名:千帆ジョアンソン)だ。やがて零とパピコは出会い、二人の距離は少しずつ縮まっていく。
ある夜、パピコは謎の老人を助けたことで、腕輪状の装置を装着される。外れないその装置は、彼女の身体を“巨大化”させる力を持っていた。どれほどの衝撃にも耐える強度、都市を見下ろす視野、無防備さと力強さが同居する新しい身体。彼女はこの力で、街を襲う脅威と向き合っていく。
同時にネット上では「Enjoy the End」という投票サイトが流行。ユーザーが望んだ“出来事”が
現実化してしまう不可解な現象が連鎖し、社会は徐々に不穏さを増していく。個人の恋と希望、群衆の願望と悪意が、東京という舞台でぶつかり合う。


キャラクターの魅力

パピコ(千帆ジョアンソン)

「巨大化する女性」という一見センセーショナルなモチーフを、人間らしい逡巡思いやりで受け止めるヒロイン。職業ゆえの偏見やバッシングに晒されながらも、彼女は他者を守るために力を使う。身体のスケールが変わっても、描かれるのは“誰かのために立つ意志”だ。

横山田零

映画づくりを夢見る少年。パピコへの敬意と恋慕、そして創作への情熱が、行動の理由として一本の線で結ばれている。彼の視点は読者の視点であり、圧倒的な非日常に“倫理のピント”を合わせ直す役割を担う。

周辺人物たち

炎上に加担する匿名の群衆、瞬発的に暴走するメディア、正義を語りながら暴力に滑る者——。奥浩哉作品らしく、現代社会の相貌がキャラクターの群像を通して立ち現れる。善悪の単純化ではなく、選択の結果が容赦なく描かれる点が読みどころだ。


絵柄と雰囲気

奥浩哉ならではの写真的ディテール3D的な量感が、都市のスケールをリアルに見せる。とりわけ高層ビルの立体感、路面のテクスチャ、空気遠近の効いた遠景は、“巨大化”の体験を読者に追体験させる装置として機能する。
演出は静と動の切り替えが鮮やか。会話劇の淡さから、一枚絵のような見開きへ。日常の空気を丁寧に積んだ後で、非日常の衝撃を叩き込むリズムが心地よい。結果、スキャンダラスな題材でありながら、読後には不思議な人間味が残る。


印象に残ったシーン(ネタバレ配慮)

「巨大化=圧倒的暴力」と短絡しない本作は、“守るために大きくなる”という発想で場面を構築する。たとえば、パピコが周囲の安全を確かめながら慎重に動くシークエンスでは、都市と人間のスケール差がドラマを生む。破壊の爽快感ではなく、緊張と責任が描かれるからこそ、彼女の行為には倫理的な重みが宿る。
また、ネット投票が現実を変えるという設定は、
「願望のコスト」を読者に突きつける。悪ふざけ半分のクリックが、不可逆の出来事を招く——そこには現代のSNS環境で誰もが感じたことのある“群衆の軽さと怖さ”がある。


こんな人におすすめ

  • SF×社会風刺の組み合わせに惹かれる人
  • 非日常の超設定をリアルな筆致で味わいたい人
  • 『GANTZ』『いぬやしき』の骨太なエンタメ性が好きな人
  • 単なるパニックではなく、個人の倫理と選択を読みたい人
  • 映像的カット割り立体的なアクション構図にワクワクする人

類似作品(読み比べガイド)

  • GANTZ(奥浩哉):理不尽なデスゲームと超科学の融合。GIGANTは“群衆の願望”を軸に社会現象へ拡張。
  • いぬやしき(奥浩哉):力を得た老年男性/青年の対比がテーマ。GIGANTは“力を得た女性と、彼女を映す少年”という鏡像関係で語る。
  • BLAME!(弐瓶勉):都市スケールの圧迫感・情報量。世界観の異質さを視覚の密度で魅せる点が通底。
  • アクション大作映画群(怪獣・巨大化系):スケール表現の快楽は共通だが、GIGANTは倫理の芯を太く持つぶん、読後に現実へ戻る際の余韻と問いが強い。

Q&A(はじめて読む人の不安を解消)

Q. 性的・暴力的な表現は強い?
A. 成人向け要素や暴力表現を含む場面があります。苦手な人は注意。ただし描写は物語上の必然で、ショック狙いの羅列ではありません。

Q. 『GANTZ』未読でも楽しめる?
A. 問題なく読めます。作風の系譜は感じますが、世界観は独立。テーマは“恋と倫理と群衆の願望”で、入口は明快です。

Q. どれくらいで読み切れる?
A. 全10巻完結。テンポが良く、映像的でページがどんどん進むタイプ。区切りよく読みやすい。

Q. どこが“今っぽい”の?
A. 投票サイト「Enjoy the End」に象徴されるように、ネットの集合意識が現実を動かすというモチーフがコア。匿名性・炎上・デマ拡散といった時代記号が物語の実質的な駆動力になっています。


まとめ(総評)

『GIGANT』は、「巨大化」という身体的ファンタジーを通じて、“私の願い”と“私たちの願い”が衝突する現代を描いたSFエンタメだ。
圧巻のスケール描写やアクションはもちろん、読後に残るのは人間の優しさと責任の輪郭
。パピコが選ぶ一歩、零が差し出す一言、その小さな決断が巨大な出来事の只中で確かな意味を持つ。
10巻で完結しているため、読み始めやすく、一気読みの満足度も高い。奥浩哉作品のエッセンス——“可視化された悪意”と“それでも希望を語ること”——を、現代の手触りで味わえる一作だ。まずは1巻から。


参考・刊行情報メモ

  • 連載誌:ビッグコミックスペリオール(小学館)
  • 連載期間:2017年12月8日〜2021年9月24日
  • 単行本:全10巻(最終巻=Vol.10)
    (告知・事典・流通ページを総合参照) ウィキペディア小学館コミック

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